タイの「南蛮菓子」って?
南蛮菓子と聞いてまず思い浮かぶのは、金平糖やカステラでしょうか。金平糖は、宣教師のルイス・フロイスが織田信長に献上したエピソードが有名ですね。カステラは、ご存じ南蛮貿易の町・長崎の銘菓です。
「南蛮」という言葉には「南」の字が付いていますが、ポルトガルやスペインの人たちが南方を経由して航海し、日本に渡来したことに由来しています。南方とは、今のフィリピンやインドネシア、そしてタイのこと。当時、タイは「シャム(サヤーム、サイアム)」と呼ばれ、アユタヤー王朝の時代でした。そう、南蛮菓子はタイにも伝わっているのです。
ポルトガルから伝わったタイのお菓子として有名なのは、「フォーイトーン(金の糸)」。卵黄と砂糖を糸のような形状に固めたお菓子です。ポルトガルでは「Fios de Ovos(卵の糸)」というそうですが、同じものは日本にも伝わって「鶏卵素麺」となりました。関東の人には馴染みがないかもしれませんが、福岡の老舗のものが有名で、京都や大阪にも鶏卵素麺を作っている和菓子屋があります。タイではもっと広く一般に親しまれていまして、スポンジケーキの上にフォーイトーンをたっぷり散らした明るいオレンジ色の「フォーイトーンケーキ」も人気です。
そんなフォーイトーンをはじめとするタイの南蛮菓子ですが、アユタヤー王朝の宮廷では、なんと日本人の血を引くマリー・ギマルドという女性菓子職人が作っていました。マリーの母方の祖父がキリシタンの日本人で、長崎からポルトガルに逃れ、タイに渡ってきたらしいのです。父は日本人とベンガル人の間に生まれたといわれていますので、マリーは日本人・ポルトガル人・ベンガル人を祖に持っていることになります。
マリーはアユタヤーの都で生まれ、王朝の高官だったコンスタンティン・フォールコン(ギリシャ人)と結婚します。ところが1688年、夫のフォールコンは、フランス軍を王宮内に入れようとした疑いでタイ人高官らに殺害されてしまいます。フォールコン亡き後、マリーは宮廷料理人の菓子部門長となり、ターオ・トーンキープマーという名を賜りました。タイのお菓子といえば、それまではココナッツミルクを使ったものが主でしたが、マリーは、卵や牛乳、小麦粉を使うポルトガル菓子を融合させて新しいお菓子を発明したといわれています。
余談ですが、マリーは2018年放映のテレビドラマ『ブッペーサンニワート(Love Destiny)』に出てきました。全国で大ヒットしたこのドラマは、ヒロインがアユタヤー時代にタイムスリップしてしまうファンタジー。タイらしいコメディーをたっぷり楽しめる上、アユタヤーの歴史も学べる嬉しいドラマです。アユタヤー時代の衣装もきらびやかで素敵でした。ドラマのおかげで、タイ人の間ではアユタヤー旅行がトレンドに。伝統衣装を着てSNSを楽しむ人たちも続出しました。2022年には映画化もされています。
古都アユタヤーは、1991年にユネスコの世界遺産に登録されています。現在、歴史公園で盛大な世界遺産祭りも開かれるようになっており、特に、ライトアップされた遺跡を背景にした壮大な歴史劇が見ものです。ビルマとの戦いの場面も実際の象が登場して迫力がありますが、ポルトガルやスペインの商人たちで賑わう市場のシーンも楽しいですよ。
アユタヤーに限らず、タイの寺院の古い壁画の中では、人々の生活を描いた風景にポルトガル人やスペイン人のような外国人が混じっていることがよくあります。日本のカステラの箱に描かれる南蛮人のような絵で思わず異国情緒に浸ってしまいますが、タイでも日本でもこうして同じように異国と貿易していたんだなあと思うと感慨深いですね。
パーソネルコンサルタントは、タイで現地採用として働きたい日本人の仕事探しをお手伝いしています。
LINEお問合せよりお気軽にご連絡ください。ご連絡をお待ちしております。