タイの「鬼」ってどんなもの?
ワンナプーム空港のターミナルビルには、さまざまなタイらしい絵画やオブジェがありますが、中でも目をひくのは巨大な鬼の像でしょう。鮮やかな色といい、冠や衣装の形・模様といい、思わず写真を撮りたくなる鬼ですが、これらはワット・プラケーオ(エメラルド寺院)の像を模したもの。空港内には全12体があるのですが、色も姿も決して好き勝手に作られたものではありません。タイの伝統美術の様式にのっとり、どの像がどの鬼を表しているのかきちんとわかるようになっているのです。
これらの鬼は、タイ語で「ヤック」といいます。ヤックは、もとは古代インド神話に登場する「ヤクサ」という鬼神でしたが、仏教に取り入れられ、護持神となりました。それで、王室寺院であるワット・プラケーオでは、魔除けのために巨大なヤック像を安置しているのです。ちなみにサンスクリットの「ヤクサ」は、日本では「夜叉(やしゃ)」「薬叉(やくしゃ)」という言葉になっています。
さて、タイのヤックは、『ラーマキエン』という物語に登場します。古代インドの大叙事詩『ラーマーヤナ』を基にした物語ですが、トンブリー王朝時代(1767〜1782)から戯曲としての編纂が始まり、ラーマ1世(在位1782〜1809)、ラーマ2世(在位1809〜1824)によって書き継がれ、ラーマ6世(在位1910〜1925)の時代に『ラーマキエン』と命名されました。ワット・プラケーオの回廊には、『ラーマキエン』のさまざまな場面を描いた178枚の壁画があります。また、『ラーマキエン』はタイの伝統舞踏劇であるコーン、人形劇であるフン・ラコーン・レックでも演じられますので、現在もショーやイベントで楽しむことができます。日本語字幕付きで上映されることもありますよ。
『ラーマキエン』の主人公はラーマ王子。鬼神トッサカンにさらわれたシーター姫を助けに行く長い冒険物語で、劇では一場面のみが演じられることになります。登場人物も大変多いのですが、人気があるのは、ラーマ王子を助ける白猿の将軍ハヌマーン。変幻自在で体の大きさや姿を変えることができ、空を飛ぶこともでき、分身の術も使えます。
鬼神トッサカンは悪役なのですが、この鬼(ヤック)がワット・プラケーオやスワンナプーム空港では守護神になるなんて面白いですね。ヤックは大勢いまして、それぞれ名前が付いているのですが、トッサカンは顔と体が緑色で、10面・20腕という姿で描かれます。頭が塔のように三段重ねになっている緑のヤックを見かけたら、きっとトッサカンです。トッサカンには、象との間に生まれた双子の兄弟トッサキーリーワン(兄)とトッサキーリートン(弟)がおり、どちらも象のような鼻をしているのが特徴。双子なのでそっくりですが、兄は緑、弟は赤ですので、色で見分けられます。どちらも空港に立っていますから、ぜひ探してみて下さい。
ところで、日本語で「鬼」という言葉は、「鬼やんま」や「鬼蓮」など大きいものに付けることがありますね。タイでも「プラームック(烏賊)」と「ヤック(鬼)」を合わせると「プラームック・ヤック(蛸)」になります。「キンカー・ヤック」は直訳すると「鬼トカゲ」ですが、恐竜のこと。「鬼のようにでかい」「鬼のように怖い」などの比喩も同様に「ヤック」を使うことができます。最近の日本語のスラングでは、「非常に」とか「超」の意味で「鬼」を付けることがありますが(鬼ヤバなど)、タイの口語でも「ヤバい!」に似た意味で「ヤック」を使うことがあります。「鬼」と「ヤック」、国は違っても同じイメージが持たれているのだと思うと楽しいですね。
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