「令和モデル」or「タイモデル」?~タイの日系ビジネス環境が生きる道
毎年9月になると、私はある方の死を思い出し、その方のご遺族に思いを馳せます。2018年9月12日早朝、出勤する旦那様を見送った後に4歳と0歳のお子さんを残しての日本人女性の転落死。私と同じ日本人女性が私の住むバンコクで、というだけでも衝撃的でしたが、その方の第二子出産と私の出産がほぼ同時期だったことで、タイでの邦人転落死は毎年のように聞く中でも、私はその方の件だけはこの先も忘れられないような気がします。
日本は、公私の区別が厳格なうえに、男性性が極めて強い社会。かつ、長時間労働や転勤ありきの雇用慣行等により、家のことは女がどうにかする、男は職場に家の事情を持ち出さない、という風潮が長きに渡って強くありました。しかし、女性の生き方もこの数十年で大きく変化。詳しくは、内閣府男女共同参画白書等をご参照いただくとして、女性の年齢階級別労働力率をグラフ化した時に現れる形状を指した“M字カーブ”も、その谷は時代の流れと共にどんどん浅く、右方向にずれ、いまや台形に近づいています。2022年には、共働き世帯が専業主婦世帯の3倍近くと、女性は結婚しても出産しても働く傾向に。
このような変化にもかかわらず、私たちは、特に今の中間管理職以上の世代は、子供の頃に刷り込まれた「昭和モデル」を男女共に、なかなか払拭できていないような気がします。かくいう私も、かつては夫以上に残業していた時でさえ、「ご飯作らないと、ああ掃除できていない」と自責。一時期夫の転勤に帯同して専業主婦になったらなったで、仕事を思い出して喪失感や不安に苛まれていました。選択肢が増えた分、それに伴う悩みも複雑多様化。しかし、これは決して女性だけの話ではないはず。男性も人の話を見聞きして思うこととは別に、我が事としては自他の「男たるもの」の認識やこれまでの慣行からなかなか自由になれていないのではないでしょうか。
タイの日本人社会には日本以上に「昭和」が残っているとも言われるゆえんの一つは専業主婦の多さとそれに依存する構造にあると思いますが、最近は駐在員の奥様も一括りにできず、特に若い世代では、配偶者の転勤を機にやむを得ず仕事から離れた方も多いのです。それが当事者の会社事情であれタイのビザ問題であれ、この変化自体ストレス要因になり、帯同者がタイでの自身の現状や家族のあり方に物思うことは以前より増えている気がします。タイの日系ビジネス環境も、「令和モデル」あるいは「タイモデル」への移行が必要なのではないでしょうか。
「家族が病院に行くため、付き添いで休みます」をはじめ、タイの方が家族に何かあるとこまめに時間を割いて寄り添ったり、普段から家族を積極的にサポートしたりしているのは皆さんもきっとお気付きでしょう。ストレス測定法の社会的再適応評価尺度は、日本でもよく取り上げられる指標ですが、配偶者の死を筆頭に、家族の健康問題や配偶者との関係が勤労者に与える影響は大きいとされています。時代の流れだけでなく、パフォーマンス面からも家族を切り離さないでとらえることが緊要。家族が一緒にいるために帯同したのに一緒にいると思えない状態は、家族だけにとどまらず企業にとってもゆゆしきことなのです。
◆内閣府男女共同参画白書(執筆時点では令和5年版参照)https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf
<本記事は「パノーラ」タイ版 2024年9月号 コラム『南洋茶話』(5)を許可を得て引用・転載しております。>
パーソネルコンサルタントは、タイで現地採用として働きたい日本人の仕事探しをお手伝いしています。
LINEお問合せよりお気軽にご連絡ください。ご連絡をお待ちしております。