乾期に深刻化するタイの大気汚染
昨年末から今年にかけて、「PM2.5」の単語に代表されるように、バンコク首都圏を中心とするタイの大気汚染が問題になっています。雨期が終わる10月下旬から4月下旬まで晴れの日が多いほぼ半年間、タイは大気汚染に悩まされます。
微小粒子状物質=PM2.5は、雨が降れば洗い流されます。乾期の最中でも多少の雨は降りますので、大気汚染もそのタイミングで緩和されます。そして、風が吹けば滞留していた大気が流れます。タイ随一の私立病院に勤務する呼吸器科の先生は、「タイの大気汚染は毎年、同程度に悪化します。特にひどい年、特に穏やかな年はあまりなく、メディアが騒ぎ立てている年は、政治的・経済的な理由が絡んでいるはずです」と、話していました。
ただやはり、「最近は特にひどい」という時期はあります。今年に入ってからは1月下旬がそうでした。世界各地の大気質指数(AQI⁺)を発表しているスイス企業「IQAir」によると、タイは2025年1月24日にAQI⁺が「171」に達し、世界ワースト8位となりました。ちなみに「健康への悪影響が始まる」レベルはAQI⁺100以上です。
同日は、バンコク都庁による測定で都内全50区のうち48区で「健康に被害を及ぼしているレベル」(赤色)に達しました。残り2区は「健康に被害が出始めるレベル」(オレンジ色)です。タイでは先のAQI⁺ではなく、PM2.5の1立方メートル当たりの平均値で、大気汚染の度合いが表されます。世界保健機関(WHO)指針の環境基準は25マイクログラム。日本や米国は35マイクログラム、そしてタイは「上げ底」の50マイクログラムに、それぞれ設定しています。赤色の範囲は75.1マイクログラム以上、オレンジ色は36.1~75マイクログラムです。
タイの大気汚染の主因は、農作物の収穫後に農地を焼く「残渣(ざんさ)焼却」による煙、空気が乾いてより発生しやすくなる山火事、そして都市部での交通渋滞(排気ガス)です。残渣焼却は野焼きとも呼ばれますが、焼き畑とは別です。
タイ政府は現在、残渣焼却を全国的に来年5月31日まで禁止しています。山火事に対しては、すぐに対処できるよう消防体制を再構築しています。ただ、交通渋滞に関しては効果的な対策を講じられないようです。1月下旬にバンコク首都圏の都市鉄道を無料で開放、一時的にPM2.5濃度が低下したことから延長案が浮上しましたが、結局は見送られました。バンコク都内でタイミング良く強めの風が吹いて、大気を循環させただけだったのです。
大気汚染は結局、マスクを着用したり外出を控えたりするなど、個人レベルの対策が重要です。