イサーンの魂を歌い継ぐモーラム
モーラムは、タイの東北部イサーン地方の伝統音楽であり、「歌の達人」「語りの達人」という意味を持ちます。歌い手が物語(歌詞)を語るように歌うのが特徴で、その歌詞にはイサーンの人々の生活や伝統に深く根ざした喜びや悲しみ、希望や苦労が込められています。モーラムはまさにイサーンの文化と歴史を代表する音楽と言えるでしょう。
モーラムとよく比較されるのがルークトゥンですが、その違いは主に言語にあります。イサーン語で歌われるのがモーラム、タイ標準語で歌うのがルークトゥンと考えると分かりやすいでしょう。ただし、中には「ルークトゥンイサーン」や「ルークトゥンモーラム」と呼ばれる曲も存在します。これらはモーラムの要素を取り入れた曲やイサーン語で歌われるルークトゥンのことを指します。
伝統的なモーラムは、ケーンの伴奏でイサーン語で歌われるのはもちろんのこと、その歴史の中で様々な様式とスタイルが確立されてきました。歌い手は、その場の雰囲気や観客に合わせて歌詞やメロディーを即興で作り上げます。そのため、モーラムを演じるには長年の修練が必要とされており、一般的にはなかなか目にすることができません。モーラムの多様なスタイルには、以下のようなものがあります。
伝統的なモーラムの様々なスタイル
・ラムピーファー: 最も古いモーラムの形の一つで、ピーファーと呼ばれる精霊を祀るための儀式で歌われました。
・ラムローン: 一人の歌い手が日常生活や自然、恋愛などをテーマに歌います。
・ラムクローン: 一人、または二人が長い物語を語るように歌います。
・ラムムー: 複数の歌い手の掛け合いで、伝統的な楽器編成で祭りや儀式で演奏されます。
・ラムプーン: 素朴な歌い方が特徴で、伝統的な民謡に近い雰囲気があります。
・ラムパヤー: 恋愛や人生をテーマに詩的な言葉で歌い合います。
・ラムプルーン: 複数人が軽快なリズムに合わせて踊りながら歌うスタイルです。
・ラムキヤオ: おめでたい歌詞をお祝いの場で歌うスタイルです。
・ラムチンシュー: 男女の恋の駆け引きをユーモアを交えて歌います。
・ラムシン: 一番新しいスタイルで、アップテンポなリズムと現代的なアレンジが特徴で、若者に人気があります。
また、ラオスには男女の求婚儀式としてのモーラム「ラムコン」があります。これは、男性と女性のグループ(親族)が向き合う形で座り、互いの紹介や自慢、相手への質問などをユーモアを交えてやり合うという古い伝統的なスタイルが継承されており、毎年コンテストも行われています。
このようにモーラムは、ルークトゥンと違ってより伝統的な要素が強い、どちらかというと民族音楽と言える音楽ですが、ルークトゥンやポップスなどの要素も取り入れて若者へのアピールも忘れていない柔軟な音楽でもあります。機会があれば、ぜひ直接ご覧になってください。