タイ人は日本人より幽霊話が好き
「タイ人は日本人より幽霊話が好き」と感じることがあるでしょう。親しくない相手と会話が途絶えたとき、「幽霊を見たことありますか?」と聞くと、思わず話がはずむことがあります。やみくもに信じているというより、楽しんでいるといった雰囲気です。タイのホラー映画には必ず、笑いのシーンが含まれます。
悪霊、怨霊、悪魔、鬼、狐狸(こり)妖怪まで含めると話が大きくなってしまいます。ここでは日本でいう「成仏できずに現世をさまよう」幽霊について見ていきましょう。
タイでは亡くなって3日に幽霊となります。最初の2日は亡くなったことに気づかないというのが理由です。もちろんこれは、事故などに遭って突然に命を終えてしまった人の幽霊を多く指します。
その場合、幽霊として現れるのは亡くなった場所です。当たり前と思われがちですが、「病院に担ぎ込まれたことを認識していたら、幽霊として現れるのは事故現場ではなく病院」と説明する人がいます。もちろん、日本のように未練を残す場所に現れることもありますが、タイの幽霊はたいてい地縛霊です。
「家に帰れずに周囲をうろつく」浮遊霊はいます。しかし、「恨む相手を追い回す」浮遊霊はホラー映画の中だけ。現世にさまよう浮遊霊があちこち飛び回っていたら、「ずいぶん賢いな」と思われてしまうようです。
というのは、身内を交通事故などで失った場合、遺族が僧侶と共に事故現場まで行って身内の霊を自宅に連れ戻す、という儀式がタイにあるからです。幽霊は最後に意識のあった場所から動けずにいる、という考えです。そうすると、日本のユーチューバーが実話として紹介するような、行動できたり会話できたりする幽霊は何とも眉唾な存在です。
タイで幽霊といえば、200年前の物語「メーナーク」です。実話小説として今でも出版され、過去に何度も映画化され、在タイ日本人にもよく知られています。夫を戦に取られた妻メーナークが、自宅で子どもを産もうとするものの、難産で子どもと共に命を落とします。しかし幽霊となって戦帰りの夫を迎え、家族幸せに暮らそうとし、最後は高僧に諭されてこの世を去ります。ストーリー的にもメーナークは家に居続けます。タイで最も知られた幽霊も地縛霊なのです。
幽霊を信じるか否かは別の話です。例えば亡くなった人の話をするときや、通夜や葬儀に参列することになったときなど、このような幽霊の知識が役に立つことがあるかも知れません。