2025.03.18タイ生活

「〇〇はつらいよ」? タイ人社会に見る上から/横からの気遣い

皆さんは日頃、第三者の前で「旦那さん」「奥さん」である自分を意識することはありますか? 想像するところ、駐妻・駐夫さんであれば帯同期間中は無意識レベルも含めてかなり多くあり、それ以外だとあまりないかもしれませんね。私事になりますが、私の夫はタイの軍人でして、地方基地の副司令官という役職に就いたときに、自動的に私もその夫人会の幹部になりました。あくまで夫に附属する存在として、会議や式典等への出席が求められるようになり、最初は戸惑いのあまり拒絶反応が出ました。自分のせいで夫に迷惑がかかるようなことは避けたいと思う一方で、自分の仕事を自ずと調整することにもなり、かつて味わったことのない種類の不安・葛藤を覚えたものです。しかし、今では「奥さん」であるがゆえの仕事も、楽しんでいます。このように変化しえたのはなぜか? 振り返ってみると、主なカギは二つありました。

一つ目は、夫の上司とその奥様方を通じて、タイで上に立つ方たちの気遣いのこまやかさに触れたことです。優しさがありがたく、緊張もほぐれ、ロイヤリティまで抱くようになりました。最初は自分が勝手に作り上げたイメージで、率直に言って怖かったのですが、ご一緒するようになって、皆さん基本的にフレンドリーで、常にねぎらい、気遣ってくださるのが沁みました。タイ人を理解するキーワードとして、「グレンジャイ」という言葉が、在住日本人の間でもよく取り上げられ、主に下から上への遠慮・忖度が起こす弊害が話題になりますが、それを見越してタイの上の方たちは、下が接しやすいようにかなり気遣いしているのが、よく見て取れました。上下関係でつらいのは、下ばかりだと思っていましたが、上もつらいと言いますか、上は上で大変なんだな、と。単純比較はしにくいですが、その上からの思いやり「ナムジャイ」は、総じて日本よりタイの方が繊細で丁寧と感じています。タイは日本より権威主義の度合いが強い分、組織運営にも潤滑油が必須と意識されているのでしょう。

もう一つは、夫からのいたわりと感謝です。この点、私が初期に愚痴をこぼしても、夫は「仕方ないだろ」「俺の方が」等と被せたりせず、無視もせず、私の言葉にひたすら耳を傾け、「お疲れ様」「ありがとう」とこまめに言ってくれました。夫も新しい職責で大変な中、私をなるべく支援しようとしてくれていたのも伝わりましたしね。次第に、私の荒れていた気持ちも落ち着き、「夫と一緒に頑張ろう」と前を向けるようになりました。すると、自分の個性も実績もなかったようにされる感じがして抵抗のあった第三者からの「奥さん」という扱いも嫌ではなくなりました。

私の場合は新たな状況ですぐに「自分から」とはならず、上から/横からの気遣いに助けられて視界が開け、「自分でも」楽しさを見出せるようになった形ですが、いい勉強になりました。最近では私も、私が上となる場面や横の関係で、以前よりにこやかな表情を意識し、こまめに声をかけるようにしているのですが、色々なことの運びが良くなったように感じています。仕事にプレッシャーやストレスは付き物で、周囲への配慮をする余裕がないなんてこともあるかと思います。でも、自分からこまやかな心配りをし、朗らかであることに努め、積極的に部下や家族に労いと感謝を伝えることで、仕事でも家庭でも好循環が生まれるのではないでしょうか。自分が楽になるために、という観点からでも、相手を想い、慰労や感謝の声掛けを増やしてみてはいかがでしょうか?

 

<本記事は「パノーラ」タイ版 2025年2月号 コラム『南洋茶話』(10)を許可を得て引用・転載しております。>