ビジネスでタイ進出を考えるのであれば、税務処理は避けて通れません。「税務処理くらい、日本でもやっているし大丈夫だろう」と思ったら大間違い!
タイと日本では税務にかなりの違いがあり、知っておかないと思わぬ事態に遭遇することも…。
今回はタイで会計事務所を経営する米国公認会計士の弘畠さんに、その違いを5つ教えていただきます。
<弘畠 夕子氏プロフィール>
ProMission Co., Ltd.代表。米国公認会計士。
2011年にProMission Co., Ltd.を設立し、タイで会社設立から会計・税務サービスまでをワンストップで提供している。
https://promission.asia/
※本記事はYouTubeチャンネル【知って繋がるバンコクのビジネスチャンネル〈タイ前線〉】の投稿を基にしております。
①毎月税務申告と納税が必要
日本の場合は消費税や法人税において、中間申告と確定申告は年2回の申告納税です。一方で、タイの場合は日本の消費税にあたる税金「VAT」という税金があるのですが、このVATを毎月申告納税しなければなりません。特に売り上げに関するVATは申告漏れを起こすと即ペナルティとなってしまいます。
もう一つ、タイ独特なのが「源泉税」です。サービス取引ほぼ全てにこの源泉税が課税され、こちらも毎月申告納税が義務となっています。源泉税は全ての会社で必ず源泉徴収が毎月発生しますので、タイの会社と会計事務所では税金の申告締め切りに毎月追われているのです。
特に、立ち上げて会社を作ったその月からこの「翌月きちんと集計して申告書をまとめる」という業務がスタートします。ですので、会社を作るときには同じタイミングで会計スタッフを雇うのか、それともアウトソーシングするのかといったこともしっかり決めておかないと、バタバタしているうちに申告が遅れてしまうという事態にもなりかねないため要注意です
②すべての会社が監査が義務
日本の場合、監査義務があるのは上場企業に対してで、会計監査を必ずした上で株主などの関係者に決算情報を公開するというのが義務づけられているかと思います。しかしタイの場合、全ての会社に対して監査が義務づけられています。全ての会社がこの監査を受けた上で、監査人が監査を終えた後に監査報告書を作成し、会社としての正式な決算書を出してくれるという流れになっているのですが、この決算書をベースにして法人税の確定申告を行います。つまり、監査が終わらないと確定申告もできないというわけです。「監査と確定申告はセットになっている」とも言い換えられるでしょう。
③源泉税がほぼすべてのサービス取引に適用される
日本でもタイでも共通して存在する「源泉税」。会社が社員に給料を払う際に、社員それぞれの方の個人所得税を概算で計算して月割にした金額を給与から差し引き、翌月初めに税務署に源泉税として納税します。ここまでは日本もタイも一緒なのですが、タイの場合違うのは、この源泉税がほぼすべてのサービス取引に適用されるというところ。課税が適用されるのはオフィスや工場の賃貸契約、会計事務所や法律事務所の各種サービス、電話料金、郵送費、ソフトウェアなど本当に様々です。日本だとフリーランスの方に一部のサービスを受けたときにかかる場合がありますが、その源泉税が適用されるケースは少数ですから、これもタイと日本の大きな違いと言えます。
諸々のサービスを受けたときのサービス料において、支払う側は、支払い時に必ず源泉税を計算してその分を差し引いてから支払いをするという「源泉徴収」をします。税率は3%のことが多く、内容によっては1〜5%の税率の幅があります。つまり、サービス業を営む会社にとっては売り上げの3%が自動的に源泉税として引かれて手元に入ってこないので、その点に関しては念頭に置いておかないといけないポイントです。
④税務調査なしでは還付されない
日本の消費税にあたる税金「VAT」や、さきほどご紹介した源泉税は、税金を払いすぎたときには当然、税務署に還付申請することができます。日本であれば払いすぎた消費税は還付申請すれば利息付きでほとんど調査なしで返ってくるのですが、タイでは還付申請を行うと、必ず税務調査を受けてからでないとお金が返ってきません。④で源泉徴収の話をしましたが、サービス業であれば売り上げの3%が自動的に源泉税として持っていかれている状態なので、納税額が売り上げの3%を下回っていると税金を払いすぎている状態になってしまうのです。したがって、払いすぎた税金を返してもらう時には税務調査を確保しないといけません。
特にコロナ渦中は業績が落ちていた会社も多く、業績が落ちると当然赤字決算になったり、利益がすごく少なかったりもします。そんな中で売り上げの3%が自動的に源泉税で徴収されているので、納税額ゼロにもかかわらず、既に持っていかれた源泉税が数十万バーツにのぼったケースも。税務調査で指摘を受けると追徴課税がある場合も考えられますが、それぞれの会社できちんと管理できているのであればそんなに怖がる心配はありません。たった3%といえど積もり積もれば大きくなるもの。「チリも積もれば」と言いますが、徴収された源泉税は税務調査をしてしっかり取り戻しましょう。
⑤証憑書類が細かく、書類の量が多い
エビデンスになる領収書や請求書など、証憑書類の要求事項がとにかく細かく、量も多いのがタイ。タイではVAT申告にインボイス方式が取られており、領収書や請求書に代わる書類のことを「タックスインボイス」と呼びますが、日本でもこれにあたる「インボイス制度」が2023年10月からスタートしたのは記憶に新しいと思います。例えば物品を購入した・サービスを購入したそのときに、消費税にあたるVATが課税される取引であれば必ずタックスインボイスを出す必要があります。その記載事項は厳格にルールが決められており、少しでも間違いがあると税務申告に使えず、税金を余分に払わなければいけなくなるため、経理担当者は書類のチェックを入念に行い、間違っていれば書類を差し替える必要が出てきます。そんなわけで、タックスインボイスの扱いはかなり神経を使うものとなっています。
また、書類の量自体も多いのも特徴です。タイの場合、VAT申告には以下の5つの書類が必要です。
・請求書
・源泉徴収証明書
・送金記録
・タックスインボイス
・銀行の融資金入出金記録
例えば、とある取引があったとします。その取引の中でまず請求書を相手の会社から出してもらい、それに基づいて源泉税を差し引いて振り込みをします。そのときに「源泉徴収証明書」という書類の作成が必要です。さらに、その振り込みをしたときの振り込みの記録も必要となってきます。というのも、タイの銀行はどこに送金したか、どこから入金があったかというような会社名や情報が一切記載されないので、それぞれ送金するたびに相手に送金記録を送らないといけません。これを保管しておかないといけないのです。相手の会社から領収書に加え、タックスインボイスというVATのエビデンス(取引記録の領収書)を出してもらいます。最後に全体統括として、この中に同じ金額が取引として存在することを証明するために銀行の融資金入出金記録を添付します。このように、全部で5種類の書類を全部ひとまとめにして、それぞれセットにしてファイリングするという手続きを経なければいけません。
しかも、それらの書類はPDF不可で原本でないといけないため、経理担当者はせっせと書類を作っては権限者にサインをもらいにいき、原本を郵送し、また別取引の書類を集め……。こんな風に紙の書類だらけなのがタイの税務なのです。
タイは法人税の税率が低い
日本と違って煩雑で面倒なことも多いタイの税務ですが、中にはいいこともあります。それは「タイは法人税の税率が低い」ことです。
タイの法人税は、状況にもよりますが、実効税率20%。さらに中小企業に該当する企業であればもっと税率が低くなり、0〜20%未満の間になります。日本の法人税の実効税率は40%前後ですので、タイの法人税の低さはかなりの魅力ですね。
以上、タイの税法と日本の税法の大きな違いを5つに分けてお伝えしました。
少し複雑な面もありますが、円滑にタイでのビジネスができるようにきちんと違いを知っておきましょう!
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