皆さん、タイに来てからは日本のニュースをどのようにご覧になっていますか? 今は世界のどこにいても検索サイトやSNSを開くだけで何かしらのニュースが目に入ることに加えて、バンコクでは前々から日本の大手新聞の配達に日本の民放までも含むテレビ視聴サービスもあり、日本を離れていてもさほど浦島太郎にならずに済んでいるのではないでしょうか。
そんな中、最近の日本のニュースではどんなものが気になりますか? 例えば、特殊詐欺や闇バイトだと、日本にいる家族が被害に遭わないか心配になったり、容疑者がタイや周辺国で逮捕されることもあるのでタイにいても関心を持ったり身近に感じたりするのではないでしょうか。一方、大阪地検の元検事正が部下だった女性検事に性的暴行を加えた罪に問われている事件なんかはどうでしょうか? 「大阪か」「検察か」「性的暴行?」等とあまり自身にゆかりのない地域や業種・職種であったり、自分が事件の加害者にも被害者にもなることはないと思ったりすると、なかなか関心の対象とはならないかもしれません。また、2024年末には超大物タレントが民放幹部も絡むと言われる形で同局の若手女性に巨額の示談金を支払うような密室でのトラブルが発生していたと報じられています。これも同様に「芸能界か」とあくまで別世界の話のように感じられるかもしれません。しかし、こういった事件は、そのスキャンダラスな面に止まらず、経営の観点からも看過できない要素を多く含んでいます。特に、今このページをご覧の方には、現地法人の組織運営や人事に携わる方も多いと思われますので、自分の組織や身近でも起こりうること、といった危機意識を持つことが肝要です。
大阪地検のケースをもとに、現時点で被害者が記者会見で訴えたようなことが、自分の会社で、同僚や上司・部下、あるいは自分や身内が加害者・被害者になる可能性を一度想像してみませんか? 「いやいや、そんなことは絶対ない」と言えるでしょうか? 上司と部下が複数人で酒の席を持った後、泥酔して前後不覚の部下が、気づいたときには上司に密室で卑劣な行為をされていた、という状況になっていた。そして、熱心に働き組織に誇りも持っていた部下は深い傷を抱えながらも、仕事を愛し組織に影響を及ぼしたくなかったがゆえに、家族にも職場にも相談できず、一人苦しみ、一切を隠すように仕事に励んでいた。しかし、仕舞いには心身の健康を害し、仕事にも行けなくなった。その状態に耐えきれず職場で勇気を振り絞って申告したにもかかわらず、その内容が漏れてむしろ中傷されたり、関係者の処罰を放置されたり、と然るべき対処がなされなかった。その結果、組織の関係者も訴え、記者会見を開くに至り、全国に知れ、マスコミにも特に大きな関心を持たれる事態となった。
当事者・関係者としての想像力をどれだけ持てたかは分かりませんが、少なくとも自分の職場でこんなことが起きた場合を考えると、深刻さは多少なりとも感じたのではないでしょうか。もしかすると、「うちはそんなに名前の通った会社じゃないから」「タイでなら」として、もし何かあっても騒ぎにはならないと思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、今どきどこで誰がカメラを回しているか分からないものですし、一度それが良からぬ形で拡散された場合、またここが外国であることを考えた場合には、会社名ではなく「日本人」ということででも取り沙汰されて、いずれ会社探しが行われる可能性もあります。
本件を「タイから見る」形で、「お酒」「性に対する認知」「権力格差」という潜在リスクについて考えてみたいと思いますが、少し長くなりますので、その内容についてはまた別の回でお話しさせていただこうと思います。そのページを開くまでに、皆さんもタイにどんな特有の要因が潜んでいるか、一度考えてみてください。ご自分や周囲の方、あるいは会社がトラブルに巻き込まれないために。