役職が上がると、何かと改まって話す機会が増えるかと思います。しかも、現法に駐在するのと同時にいきなり日本とは桁違いの数の部下を抱える方も少なくないようですし、母語が異なる相手に語り掛けるとなると、更にハードルが上がりますね。
そういう場面で話すのは得意ですか? タイでは製造業で進出されている企業が多いことから、エンジニア出身の方を中心に「話すのは苦手」とおっしゃるのも比較的よく耳にしますので、話す以前に、「口にする内容を考える」という時点でちょっと、という方も結構いらっしゃるのかもしれません。とはいえ、リーダーシップが求められる立場であれば、日本人はシャイだから、こういうのは苦手で、とやり過ごすのもいかがなものかとなってしまいます。そこで、今回は、事前に原稿を用意する場合でも、突然何かを発するよう求められることになった場合でも、「アワワワワ」「あのー、ええっとー」とならずに済むよう、一度「型」としてスピーチを考えてみたいと思います。
少し前になりますが、俳優の真田広之さんがアメリカで、2024年秋にエミー賞、2025年初にゴールデングローブ賞という栄誉に輝きました。その際の受賞スピーチやインタビューの応答には非常に参考になる点が多かったので、今回はそれを基にしてみましょう。ポイントは、「感謝」、「ストーリー」、「広がり」の3点です。
まずは、ゴールデングローブ賞授賞式主演男優賞受賞時のスピーチから。
Thank you, I was there. Um, thank you, Golden Globes for recognizing me. Um, I’m so happy to be here with these great nominees. And thank you FX, Disney, Hulu and all the cast members and crew of “SHOGUN” for sharing this amazing journey. And, I’d love to say “Thank you” for everyone who has been in my life. All of you have brought me here. And I’d like to say um……for the young actors and creators in the world, please be yourself, believe yourself, and never give up. Good luck!
(Golden Globes公式) https://youtu.be/i2BZr9ktFxI?si=TRVqAQWZfMv7zuzn
(仮訳)「ありがとうございます。私はそこにいました。ゴールデングローブ賞ありがとう、私を認めてくれて。素晴らしい候補者の方々と一緒にここにいられることをとても嬉しく思います。そして、FX、ディズニー、Hulu、そして『将軍』のキャストとクルーの皆さん、この素晴らしい旅を共にしてくれてありがとう。そして、私の人生に関わってくれた全ての人に「ありがとう」と伝えたいです。皆さんが私をこの舞台に連れてきてくれました。そして、世界中の若い俳優や製作者たちに伝えたいのは、自分らしく、自分を信じて、そしてあきらめないで、ということです。健闘を祈っています!」
「Thank you」を4回繰り返しています。「ありがとう」はシンプルでありながら、最も人の心に刺さる言葉です。繰り返していいのです。周囲への感謝を重ねることで自身の謙虚さと他者への敬意も自ずと滲み出ます。ただ、その際、単に繰り返すだけでなく、感謝の対象を広げたり、感謝理由を具体的に添えたりすることで、その真実味が高まります。そこにストーリーを思い浮かべられるような描写を含められれば、多くを語らずともより響きます。対象を広げる場合は、感謝すべき人の取りこぼしがないように、という点ご注意ください。また、自分が話す機会でも、自分の話に止まるのではなく、仲間たちや自分がかかわりを持つ人たちに繋げる形で広がりを意識されると、余韻を残し、次の何かに繋がる効果も期待できます。
それでは、「感謝」、「ストーリー」、「広がり」の3点がより豊かなエミー賞主演男優賞受賞時スピーチを見てみましょう。
Thank you. Thank you so much. Oh, my goodness. Ah, I’m beyond honored to be here with amazing nominees. And, thank you for FX, Disney and Hulu for believing in me. And thank you, my team, for always supporting me. And, thank you for all the crew and cast of “Shogun.” I’m so proud of you. It was an “East meets West dream project with respect”. And “Shogun” taught me that when people work together, we can make a miracle. We can create a better future together. Thank you so much.
(Television Academy公式) https://www.youtube.com/watch?v=wv7o8SwPV4A&t=7s
(仮訳)ありがとう。どうもありがとう。何ということでしょう。すばらしい候補者の皆さんとここにいられることが、大変光栄です。 そして、僕を信じてくれた FX、ディズニー、Hulu に感謝します。また、僕をいつも支えてくれたチームの皆さん、ありがとう。そして、『将軍』のスタッフ、キャストのみんなに感謝します。僕は皆さんを、とても誇りに思います。これは東洋と西洋が出会い、互いに敬意を持つ夢のプロジェクトでした。そして『将軍』は僕に、みんなが協力し合えば奇跡を起こせることを教えてくれました。私たちは、ともにより良い未来を築くことができるのです。 本当にありがとう。
先の例もこれも受賞の場でのスピーチなので感謝が特に多いのですが、キックオフミーティングや何か成果を挙げたときでも、あるいは年度納めや離任時の挨拶は勿論、厳しい話をする場合でも応用できる場面は少なくないと思います。ストーリーについては、「困難→尽力→達成」を「過去→現在→未来」という広がりをもって絡められれば、モティベーションやチームの団結を刺激する内容にもなりましょう。これらのスピーチをひな型に、皆さんの身近な方たちを思い浮かべながら、英語の勉強としてでも、一度ご自身が何か話すことになったら、とイメージしてスピーチを用意してみてはいかがでしょうか?