海外展開を成功させるうえで、進出先市場の特性を正確に捉えることは欠かせません。とりわけ東南アジアの中心ともいえるタイは、親日的な国民性や戦略的立地などから多くの日本企業が拠点を構えています。
しかし、タイ進出を成功させる鍵は、事前に実施する市場調査の質と精度にかかっています。本記事では、タイ市場を多角的に分析し、進出可否の判断材料となる重要ポイントをご紹介します。
1. 市場調査の第一歩:どこに相談すべきか
まず最初に頼るべきは、日本企業をサポートしている公的機関や商工会議所です。
● JETRO(日本貿易振興機構)
進出を検討する際、最初の相談先として最適なのがJETROです。バンコク事務所では、業界別のマーケット情報、法規制の解説、現地パートナー企業の紹介などを無料でサポートしています。調査レポートやセミナー資料も充実しており、タイ市場の輪郭を掴むのに役立ちます。
JETROバンコク事務所WebサイトLink
● バンコク日本人商工会議所(JCC)
さらに業界に特化した情報を得たい場合、JCCへの参加・相談も有効です。自動車、建設、食品、ITなど業種別の部会が設けられており、現地で活動する日系企業同士の情報交換の場となっています。具体的な競合動向、現地での課題、行政対応の実態など、生きた情報が得られるのが強みです。
JCC公式サイト
● 金融機関系列の現地コンサルタント
大手都銀(三菱UFJ、みずほ、三井住友)や一部地方銀行のバンコク駐在事務所には、進出支援に長けたコンサルタントが常駐しています。事業計画のアドバイス、現地法人設立の手続き、パートナー候補の調査など、より実務的な支援が受けられます。
2. タイの所得分布と人口構造
市場の潜在力を判断するうえで最も重要なのが、消費者の所得と人口構造です。
タイ全体の世帯平均月収は約27,000バーツ(約11万円)ですが、これは地域によって大きく異なります。バンコク首都圏では平均39,459バーツ(約15.5万円)と高水準で、特に中間層〜富裕層の消費が活発です。一方、東北地方や北部では平均が20,000バーツ(約8万円)を下回るケースも多く、価格戦略の設計に影響します。
また、タイの人口は約7,000万人で、労働人口(15〜59歳)が全体の約68%を占めています。特に20代・30代の若年層が都市部に集中しており、デジタルリテラシーも高いため、ECやIT関連サービスとの親和性が高いのが特徴です。
タイの社会保険制度加入者は約1,100万人(2023年時点)で、これは正式雇用者の一部に限定されています。この数字は「可処分所得を持つ層」の参考にもなります。
(参考:National Statistical Office of Thailand, Labor Force Survey Quarterly Report 2023)
3. 自動車市場:消費行動の指標
タイでは自動車の保有は「中流階級以上」の象徴とされており、自動車販売台数は国内経済と消費者心理を映す重要な指標です。
2024年の新車販売台数は572,675台で、前年比26.2%の大幅減少となりました。主な理由は家計債務の増加およびローン審査の厳格化です。また、コロナ後の物価高や利上げも影響し、耐久消費財の購入意欲が抑制されています。
(出典:マークラインズ – https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_thailand_2024)
4. 不動産市場:都市部の成長性
バンコクを中心とした不動産市場は、経済成長やインフラ整備と密接に連動しています。2019年には新規住宅建設が117,881戸に達しましたが、2023年には96,278戸にまで減少。2025年も0.7%の減少が予測されており、3年連続での減少傾向です。
とはいえ、インフラ整備が進む沿線や郊外エリアでは、中間層向け住宅や商業施設への投資が引き続き活発です。市場全体としては「選別化」が進んでおり、価格帯やロケーション次第で明暗が分かれています。
(出典:NNA ASIA「今年の住宅供給0.7%減、3年連続減少予測」)
5. 外国人・教育ニーズも見逃せない指標
バンコクには現在約90校のインターナショナルスクールがあり、教育需要の高さが際立ちます。外国人居住者はタイ全体で約300万人、そのうち約100万人がバンコクに集中しています。医療、教育、高級不動産、外食など「外国人向け高付加価値市場」は今後さらに拡大が見込まれます。
結論:タイ市場進出を成功させるには、的確な市場調査と多角的な分析がカギ
タイ進出を成功させるには、単なる「人口規模」や「市場の大きさ」だけでなく、所得層ごとの消費傾向、産業構造の動向、地域ごとの特性を複眼的に捉えることが重要です。
タイ進出の成功事例に共通するのは、事前の綿密な市場調査です。
JETRO(日本貿易振興機構)やバンコク日本人商工会議所(JCC)などの公的機関、そして現地に精通した民間コンサルタントの支援を受けながら、実践的なマーケットリサーチを行うことで、事業リスクを最小限に抑え、効果的なタイ展開が可能になります。