タイ進出を検討する日本企業にとって、すでに成果を上げている日系企業の事例は非常に貴重なヒントとなります。なぜなら、タイにはすでに多数の日本企業が長年にわたり事業を展開し、現地の文化や消費者ニーズを捉えた独自のビジネスモデルで成果を上げているからです。
タイは東南アジアでも特に親日感情が強く、人口は7,000万人超、若年層が多く、都市化・所得向上が進む成長市場です。加えてASEAN地域との経済統合の要ともなる戦略拠点であり、製造業からサービス業、小売、金融に至るまで、幅広い業種の日本企業が進出しています。
本記事では、飲食・小売・製造・インフラ・金融など、業種ごとにタイ市場で成功している日系企業の戦略と、現地ローカライズの実例を詳しく紹介します。これからタイ市場への参入を考える企業担当者にとって、実践的かつ具体的な参考になる内容です。
タイ飲食業界に進出した日系企業の成功事例とローカライズ戦略
CoCo壱番屋(ココイチ)
日本発祥のカレーチェーン「CoCo壱番屋」は、2008年にタイに進出して以来、28店舗以上を展開しています。日本の定番メニューをそのまま展開するのではなく、タイ人の辛味嗜好に合わせて調整した味づくりや、清潔感ある店内、丁寧な接客が評価されています。中間層〜富裕層を狙った価格帯設定と、ショッピングモールへの戦略的出店により、プレミアムな日式カレーとして市場に定着しました。
▶ 参考:Workshift「タイ進出成功事例」
スシロー
2021年にタイへ初出店した回転寿司チェーン「スシロー」は、わずか4年で33店舗を展開する急成長を遂げました。その理由は明確です。価格は一皿40バーツ(約160円)〜と手頃に抑えつつ、現地で人気のサーモンや炙りネタ、さらにはタイ人に馴染み深いスパイシー系のメニューも導入し、ローカライズを徹底しました。また、モール内の好立地への出店、SNSやプロモーションの活用も功を奏しました。
▶ 参考:Sushiroタイ初体験レポート
8番らーめん
石川県発祥の「8番らーめん」は、実はタイに150店舗以上を持つ、現地で最も成功したラーメンチェーンのひとつです。地元資本との合弁によりタイ法人を設立し、現地生産・現地調達の仕組みを構築。さらに、タイ語での広告展開、タイ人向けの味の調整(スパイシー、甘め)、ベジタリアンメニュー対応など、徹底したローカライズにより、全国展開を実現しました。
▶ 参考:8番らーめん公式情報
タイの小売・金融市場で成功した日系企業の現地対応事例
ユニクロ
ユニクロは、バンコクを中心に複数の大型店を展開し、ショッピングモールを主戦場に順調な成長を続けています。タイの中間所得層〜都市部の若者世代にとって、品質と価格のバランスに優れたユニクロは支持されやすい存在です。現地の気候に合わせた商品ラインアップ(吸湿速乾シャツ、通気性素材のパンツ等)や、タイ限定カラーのTシャツなども導入しています。
▶ 参考:FashionNetwork UNIQLO TH
イオン・タナシンサップ
1992年に設立されたイオン・タナシンサップ(AEON Thana Sinsap)は、タイの個人向けローン・クレジットカード市場におけるパイオニアです。現在、クレジットカード発行枚数でシェア20%以上を占め、日系金融企業の成功事例として評価されています。分割払い、キャッシング、保険など多角的なサービスを現地事情に合わせて展開しており、日系流の「安心感」も強みです。
▶ 参考:タイランドピックス – AEON紹介
タイの製造・インフラ分野で活躍する日系企業の強みとは
トヨタ自動車
タイの自動車市場では、トヨタが長年にわたり生産・販売台数ともにトップを維持しています。1970年代からの現地生産開始を皮切りに、現在では複数の工場を擁し、東南アジア全体への輸出拠点としても重要なポジションを占めています。環境規制に対応したハイブリッド車の導入や、EV戦略も推進中です。
▶ 参考:WSJ – Hybrid Boom
大林組
建設大手の大林組は、バンコクの超高層ビルや公共インフラの建設に多数関与しており、特に耐震設計の品質の高さで知られています。2025年の地震の際には、同社の手がけた建造物の耐震性が評価され、現地メディアからも称賛を浴びました。品質第一を貫く日本の建設技術が、タイでも評価されている好例です。
▶ 参考:大林組タイプロジェクト
タイに根付く日系企業の教育支援と社会貢献活動
日系企業の中には、単なるビジネス展開にとどまらず、現地の人材育成や社会貢献にも積極的に取り組む例が増えています。
泰日工業大学:
日系製造業と連携し、実践的技術者を育成。日本語・日本文化教育も行っており、人材確保面でも意義大。タイ経済の中核を担うエンジニア育成に寄与しています。
▶ 参考:泰日工業大学公式サイト
泰日経済技術振興協会(TPA/通称:ソーソートー):
1969年に設立された民間の非営利組織で、技術研修・日本語教育・出版活動など多面的な分野で日タイ間の産業協力を推進しています。現在では年間数万人が技術セミナーや日本語講座を受講しており、企業研修にも活用されています。産業人材の底上げや企業の人材育成パートナーとして、日系企業から高い信頼を得ています。
▶ 参考:泰日経済技術振興協会(TPA)公式サイト
まとめ:現地理解と長期目線がカギ
タイ進出で成功している日系企業に共通するキーワードは「ローカライズ」と「長期的視点」です。
単なる日本式の押し付けではなく、現地の文化・消費者の嗜好・価格感覚を理解し、柔軟に対応する姿勢が市場での信頼と定着につながっています。さらに、パートナー選定や人材育成、社会貢献など、短期の利益にとどまらない企業姿勢が、結果的にタイ国内でのブランド力を高めています。
これからタイ市場への進出を検討する企業は、今回ご紹介した成功事例を参考に、自社に合った戦略を描くことで、より確実な成果につなげることができるでしょう。